黒人音楽の大原則
私がアメリカの黒人音楽に興味を持ってから30年以上が経ちます。10代はバンド活動に明け暮れる毎日で、そんな中60年代ロックのルーツを探してたどり着いたのがシカゴ・ブルースというジャンル。有名どころにマディー・ウォーターズやロバート・ジョンソンなどがおり、名前を挙げるとキリがありません。
全くの余談ですが、私が黒人の音楽にドはまりしている10代の頃に私のステップファーザー(継父)がある日、こうサラッと言いました。生ライブでオデッタを聞きに行ったことがあるんだけど、鳥肌が立ったなぁ~と。
オデッタと言えば、そのころの私は地球上のブルースシンガーの中でも最も偉人と思っていた女性。そんなシンガーを生で聞いたことがあるなんて、まさに度肝を抜かれた気分でした。
今回お話ししたかったのは、長年アメリカの黒人音楽と付き合ってきて、彼らの音楽はどのように変化をしているかということ。そして結論を先に言うと何も変わっていないということ。
私の感覚的には非常に不思議なのですが、黒人のジャズ愛好家は最新のヒップホップのような音楽には否定的。また若いヒップホップのファンはジャズなんて全く聞きません。しかし、私に言わせるとどちらも黒人が創造した偉大な音楽で、やっている内容も全く同じということ。
ブラックミュージックの特徴的なところは以下3つに集約される。
- 1 ベースとなるリズムがある
- 2 そのベースへのアドリブ的なアプローチがある
- 3 情熱的、感情的、エロティック
これだけです!次の項で具体的に説明してみましょう。
1 ベースとなるリズムがある
これは時代が変わっても揺ぎ無く受け継がれている黒人音楽の象徴です。ボヤっとしたリズムではなく、思わず足踏みしたくなるようなリズムのこと。スウィング・ジャズしかり、シカゴ・ブルースしかり、ヒップホップまで黒人が考えた音楽の全ジャンルに当てはまります。
またそのリズムは形に例えると円形で360度という感覚。エンドレスに回転し続けるという特徴があります。ちょっと難しいかな、理解できますでしょうか?
2 そのベースへのアドリブ的なアプローチがある
これはモダン・ジャズの場合だとサックスやトランペットのImprovisation(即興)のこと。ジャズ・ボーカルのスキャットもそれに当てはまるでしょう。ヒップホップならフリースタイルのラップ。文化としてのヒップホップはこのフリースタイルのライミングが命でした。このスキルにはどの時代のアーティストも最も時間をかけて技を磨くところ。
歌モノに関してはR&Bもソウルミュージックもゴスペル音楽が基本。ゴスペルミュージックが生まれた教会へ実際に行くと納得できるのですが、牧師が聴衆に対して問いかける言葉(歌)はあらかじめ決まっている訳ではなく、God Spell(神の御言葉)によって牧師が発するアドリブ的な言葉である。
私も黒人の教会音楽を理解した時期にソウルミュージックのシンガーが何故あのように歌うのかを理解できたという経緯があり、何も台本がないことに非常にショックを受けた。
3 情熱的、感情的、エロティック
アドリブ的なアプローチの全ての根源は感情である。アドリブのスキルを磨いた黒人アーティストは音楽を通じて自分の感情を自由に操る。それは生活に根差して生まれた男女関係だったり、社会的または歴史的な背景だったりする。
私が初めてアメリカへ行った10代の時に感じたが、アメリカ人は非常に感受性が豊かであり、日本で感情を表に出さないように育った自分にとっては衝撃的な出来事だった。声の大きさは普通のアメリカ人でも日本人の2倍くらい、挨拶の時にわざわざハグをしたり、自分の意見を相手に伝えることを善としている文化である。だから音楽に感情を乗せて伝えること自体が彼らにとっては本気の遊びなのである。
以上が私が考える時代を問わず黒人音楽(ブラックミュージック)が同じ根源から成り立っているという見解だ。黒人音楽をしっかり耳を澄ませて、心で感じ取ることができるなら、私が解説したこの3つの要素が大原則であることがわかるだろう。
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